やれやれ。ここ最近は戦争だった。娘のスマホ依存症との戦いだ。もうこの戦い私と妻はどのくらい続けているだろう。

スマホ漬けを制御するためにあらゆることをやっていると自負できる。ルール、スクリーンタイム、Wifi制限、ギガ制限。こんなものはティーンエイジャーには通じない。彼女たちは同世代の強い結束力で平和ボケした大人の管理ネットワークなど容易に突破する。
パスワードはあらゆる要素から推測、解読される。スクリーンタイムはネットに溢れた抜け道を駆使し、ギガ制限は事前に公共Wifiで見たいコンテンツをダウンロードするという手法で無効化される。
禁欲ボックスという、設定した時間まで何しても開かない箱を導入したが、電気回路を破壊され、無効化された。あらゆる突破口が友達ネットワークでシェアされる。これほど高度に大人の目を欺く力をティーンエイジャーは持っている。私はそれを現代っ子の知性と捉え、しばし傍観する立場を取っていた。

しかし先日、学校から呼び出しがあった。合計2回による面談を学校側と行った。

1回目はICT担当教員との面談だった。ICTとはいわゆる電子デバイス系の管理統括を行う人の事である。主に成績が落ちている、学校支給のタブレットでルール違反ばかりしているという内容だった。
ここは親として謝るべきなのか迷った。やはり謝ろう。ダメな娘が迷惑をかけた。それは事実だ。それを踏まえ、私は担当教師にこういった。

「学校支給のタブレットは子供が利用するための適切な制御が施されていない。SIMカードは挿しっぱなしでいつでもネットにつなぎ放題、アプリ制限はあるも、YouTubeにはかかっていない。アクセス可能なWEBサイトはホワイトリスト化されていないのでやりたい放題だ。その上、タブレットを持ち帰るようにルール化している。IT教育とは何なのか。この状況は子供をアルコール漬けにした上で、なおもアルコールを持つことを義務化させ、しかしそれを飲むなと強要する。大人にもできない事を子供ができるワケがない。これは教育ではなく、無知な大人のサディズムだ」

と説いた。ICT担当者はしばし黙った後、多くの家庭でスマホ依存が問題化している。学校側のタブレット管理体制を見直す事にする。と言った。それからしばらくしてタブレットからSIMカードが撤廃され、コンテンツ規制も強くなったようだ。
学校が悪いとはまったく思わない。先生達の苦労は計り知れない。多くの感謝がある。しかし子供は理性が育っていない。そういう子供に対し、ザルな電子デバイスを容易に与える事は、ニコチンを投与するようなものである。目にクマができるまで、体力尽きて気絶するまで電子コンテンツを貪ってしまう。子供のスマホ依存は完全に私達大人に責任があると私は思う。

それからしばらくして2回目の呼び出しがあった。今度は生活指導の担当者が出てきた。久々に私はジャケットを着た。担任の先生と生活指導係りが殺風景な会議室で待っていた。まるで取り締まりのような雰囲気だ。生活指導から内容が伝えられた。

「子どもたちの間で、友達のSNSアカウントに不正にログインする事象が確認された。不正ログインは犯罪である。あなたの娘もそれに加担している証拠があった。これは停学もしくは退学処分のレベルにある。」

不正ログイン、犯罪。私はこれを聞いて落胆した。娘にではない、学校側の姿勢にである。
神妙な面持ちの担任。生活指導は厳しい顔を私に向けてくる。致し方ない、思っていたことを伝えよう。

「子どもたちが友達同士でアカウントにログインし合うことは中1から常習的に行われていた事である。多くの親はそれを知っている。しかもそのほとんどが学校支給のタブレット上で学校内で行われている。しかし学校側にそれを是正する動きはなかった。
もはや習慣と化した事、いわばティーンエイジャーの文化とも言えることを、更にその土壌を学校が提供していながらも、なぜ今になって、急に子供を犯罪者扱いしてしまうのか。子どもたちの悪に目を向ける前に、私達大人の鈍感さに今一度目を向けたほうが良いのではないか。」

生活指導は急に態度を変え、メモをしながら「上に報告する」と言ってから、実は学校側も今の子どもたちのスマホトラブルの対処に困っていると愚痴をこぼし始めた。

実際に先生たちには同情するしかない。本当に大変な仕事だと思う。年頃の女子を扱うのは本当に大変だ。何度も感謝を伝えた。親として学校には何でも協力したい。しかし学校という大きな組織が、弱い子供を安易に犯罪者扱いするのなら、親は子を守るため全力で戦わなければならない。

実際のところ学校側の問題は些細なことであった。もっと厄介なのが娘のカネを盗む行為である。家中に散らばった小銭は全部娘が回収し、お菓子やカラオケに消えていった。お小遣いでは足りなくなったらママの財布からお札を取る。それが未遂なら息子の財布からくすねる。何度注意しても、何度怒っても、娘はやめることができなかった。そういう病気かと疑うかもしれない。いやいやなんでも病気にしたがるのは大人の悪いクセだ。ただシツケがなってないだけである。

スマホで友達と連絡を取り、遊ぶ約束をする。映画、カラオケ、カネのかかる遊びばかりする。それを複数の友達とするからあっという間にカネがなくなる。それでも鳴り止まないスマホ。楽しくて楽なほうに逃げたがる娘。「カネがなければ奪えばいいのよ!」むしろ娘は健全な子供らしい子供とも言える。

ついに指紋認証付き金庫を導入した。私と妻の指紋でないと絶対に開かない。そこに財布、クルマのキー、息子の財布を逐一入れるようにした。シャンパンタワーに注ぐ元を断つ。蛇口を閉める。上流から枯らす。そういう作戦だ。

あっという間に娘は金欠に陥った。娘の財布を見ると13円しか入っていなかった。そうなってから親子の時間が増えた。会話も増えた。お菓子をせがみ、たまに服を買えといってくる。友達と遊びたいとも正直に言うようになった。許可を得るために何をするべきか、徐々にわかり始めてきているのかもしれない。

それからはしばらく落ち着きを取り戻した。スマホも特に規制をしていない。でも時々悪さをする。昨日は家族でトンカツを食べていた。娘はトイレに行くと言ってスマホとともに消えていった。ずっと帰ってこない。もうトンカツを食べ終わった。忙しい中、家族みんなで食事を楽しんでいるのに、スマホで友達との連絡を優先した。しかもそれを隠れて行った。そこに対して怒った。スマホによって失われる人間関係があることを教えなければならない。会話の途中で相手の視線がスマホに向くだけで、すごくイヤな気分になる。そこに居るようで居ない。娘にはそういう人間になってほしくない。

そういう時はスマホを取り上げる。カネもスマホも失った娘は、リビングにただ置物のように居る。何の精気もない、ただの肉の塊がそこにある。こんな子だっただろうか。もっとハツラツとして、ダンスを踊って、おしゃべりが好きだった。娘の本体は画面の向こう側に吸い取られたのかもしれない。ダメな娘なんだろう。でもダメかどうかは他人と比較した時に始めて起こる感情だ。本当は娘はやさしく、良い子だ。それでいい。ただ今はスマホという強烈な依存物質に勝てる力を持っていない。それだけのことだ。理性が育つまで守り続ける事は親にしかできない。大丈夫、娘の抜けた魂を引き戻す方法はある。パパに許された唯一の特権。愛情を持ってぶん殴る事だ。