ボクの昔からお世話になっている先輩がいるんですがね、最近会ったんすよ。なんだか全体的に質素になっていて、調子悪いんかなぁと思ったらまったくその逆で、思いっきり突き抜けててびびりました。ま、彼は俗にいう富裕層ですね。なかなかおもしろい人なんでまとめてみよう。 
 

ボクが会社を創業したとき、そりゃぁまぁジリ貧ですた。IT業界は明確な仕入れってのがあるワケでもないので銀行は金を融資してくれませぬ。信用もなければ尚更ですた。ママが少し融資してくれたんですが、微々たるもん。1カ月の人件費にもならぬと。そんな中、ぽーーーんっと金を出してくれたのがこの先輩です。「ぜんせーお前なら大丈夫だよ。」ちゅう一言で札束を投げてくれますた。何を隠そう、ボクにランボルギーニを教えてくれたのもこの人です。ディアブロのSVでしたのぅ。 
 

せっせとボクはその先輩に追い付こうとがんばるワケっすけど、今回久ぶりに会って状況報告したんですが、もぅ追い付けるんかいな・・てくらい先進んでて少しヘコみました。世の中は不平等で出来ているぅ。でも待ち合わせ場所の安居酒屋に運転手付きのベントレーで現れて、一緒にコーラを飲みながら焼き鳥を食べてくれる先輩が好きでもあります。 
 

「新型のアヴェンタドール買ったっす」って言うと、しっかりと「がんばったね。」と返してくれますが、彼がもうそういう類のものに何の興味もないことが目を見てれば分かります。あらゆるスーパーカーを持っていた彼ですが、今は一台もナシ。しかし総資産は数倍に膨れ上がっておりました。当時のキンキラキンだったナリは影を潜め、フツーな感じなんだけど、どこかオーラ漂う。柔らい物腰、人の話に真剣に耳を傾け、すべてに肯定から入る話し方っちゅうのは中々ビジネスの最前線で凌ぎを削る人間には出来そうで出来ない事でもあります。 
 

「今はつらい。何もやることがない。それだけがツライ。」って何度も呟く彼の話を聞いていると、なんだか人の幸せっちゅうもんはドコにあるんだろうかって考えさせられます。富を得たはずの彼が、何か大事な物を失った。そうも見えます。確実に言えるのは、スーパーカーや時計、高価な物、そういう物質は人を駆り立てるキッカケになりますが、幸せにするものではないということです。人間の最終的な終着点は精神的充足。それに間違いはないのでしょう。世界的長者のウォーレンバフェットが郊外の家に、愛する人と何も変わらぬ生活を続けるのは、物質は人を幸せにしない。それを知っているからなんでしょうか。 
 

飲食店で財を成した先輩ですが、その類まれな嗅覚は仮想通貨全盛期のもっともっと前に彼を投資に導きました。人々が仮想通貨に翻弄され始めた頃、彼は既に莫大な利益を得ていたことになります。そして彼のすごいところは、周囲に助言を行っていたことです。それを信じた人は、今ほとんどが億万長者となり、海外に移住していると言います。薄給で毎日を凌ぐ飲食店の店長が、今やシンガポールでベンチャーキャピタルを運営している。なかなかのサクセスストーリーですね。ちなみにボクも声をかけてもらいました。でも起業して間もない、毎日に忙殺されるボクは彼の助言を無視しました。所詮、今もクルマでヒャッハーしている身分ということです。 
 

「人ね・・怖いよ。人間ってもんは。相場が落ちればオレを詐欺師扱いし、突き抜けた瞬間、お礼も言わず去っていく。何人もそういう奴を見てきた。」元々人が良い先輩だからそういう事が起こるのも理解できます。人が人を信用できなくなったら、一体どこに幸せを求めてよいのか、この世界、人間しかいないのに。人を疑いながら生きる、それほどツライことはないでしょう。必ずしも富は精神的充足を与えない、一つの例です。 
 

「オレの仲間が集まれば何を話すかって?移住先の話。それだけだよ。本当にただそれだけ。」富を得た者が日本を捨てる。よく聞くことですが、これは間違いではないです。ある者は課税を逃れるため、ある者は夢を叶えるため。でも共通して言えることは、富裕層と言われる彼らは日本に良い未来を描いていないということです。 
 

富を得て、多くを知ってしまったが故日本を脱出する。富裕層をつなぎとめておく魅力が日本にはないのでしょうか。雇用を生み、富を分配する彼らは日本の富を吸い上げる外資に真っ向から戦ってくれる存在かもしれません。より強力な起業家を輩出する起爆剤のような存在かもしれません。そんな彼らがどんどん日本から出てゆけば、それこそ一億層下流社会になってしまう。 
 

ボクは三人の仲間と共に起業しました。そのサポートをしてくれた先輩はほとんどを海外で過ごします。彼がもう日本の誰かにチャンスを施すことはないでしょう。とてもとてもミクロな話ですが、社会全体にこういう現象が起きているかもしれません。