久しぶりの銀座サイエンスシリーズです。コロナ時代を迎えた銀座の今と、銀座の仕組み、何故ボクは銀座に魅せられるのかについて雑多に述べています。ナイト業界に興味ない方はスキップ!

改めましてボク、銀座のクラブ街が好きなんすよ。かれこれ20代の頃から飲んでます。もちろん銀座だけじゃないです。毎日、どこかしらのナイト街に身をおいてました。そもそもボクが初めて社会に出たのが17歳。年齢的に働けないボクを雇ったのが夜の歌舞伎町でした。だからナイト街はむしろホーム。海外に出向いた際も必ずナイト街に訪れます。ナイト業界を見ればその国の本質がよく見えてきます。人の欲望うずまく混沌とした世界、大好きです。

んで、日本最高峰のクラブ街、銀座なんですがね。もちろんコロナの影響大ありです。いくつものクラブがなくなりました。ナイト業界は真っ先に社会情勢の煽りを受け、回復するのが一番遅いという切ない性質があるんです。ホステス達の悲痛な叫びは第一回目の緊急事態宣言直後から聞こえてきました。

休業要請により、稼げなくなったホステス達がまた一人、また一人といなくなっていきました。彼女達は一人親方商売なので後ろ盾はありません。クラブ側は何も保証しないのです。しかし、この世界にもヒエラルキーがあります。いわゆる”売り上げを持つホステス”達は申告もしっかりしていますから、給付金で凌ぐことができました。更に上層にいるママ達の多くは法人化しているので、スグには困らない額が国から支給されています。もっとも苦しかったのは駆け出しホステスなどの、いわゆる”売り上げを持たないヘルプ”の子達でした。出勤もできない、給付金ももらえないんじゃぁ業界から足を洗うしかありません。

銀座は一定以上の売り上げを継続して出せる「ママ」という存在を軸に、担当ホステスと、彼女達をサポートするヘルプホステスという形で成り立っています。ママや担当ホステスは多くの顧客すべてを相手にすることはできません。よって客の嗜好を分析したうえで、それにマッチしたヘルプホステスを客にあてがいます。

ヘルプががんばれば、その売り上げは担当ホステスに入ります。客がヘルプに入れ込んでくれれば自分が動かずとも売り上げが計上されていくのです。なので優れたヘルプホステスはママや担当ホステスから引っ張りだこです。このように売上を作っていくには多種多様なヘルプホステスの存在が必要不可欠ということです。
コロナによって自粛要請が発令されると、クラブ側は客を呼ばないホステス達を出勤停止にしました。人件費がかさむからです。直接的に売り上げを作らないヘルプホステス達は出勤したくてもできない状況に陥りました。銀座を支える最も重要な層が、最もコロナの打撃を受けてしまったという事です。銀座を一つの組織体として例えると、コアは揺るがなかったが、コアを支える足場が崩壊してしまったという状態でしょうか。

休業に入る店もあれば、裏でひっそり営業しているクラブもありました。自粛という世間の流れに加え、お目当てのヘルプがいなければ当然客足は減少を続けます。借り入れをするオーナーもいました。廃業を選ぶオーナーもいました。ほんの1年前。満卓が当たり前だった活気あるクラブが、今や裏返されたグラスだらけです。その景色を見ると、日本からまた一つ、独特な文化が消えようとしている。そう思いました。

銀座は一般社会とはまた違う独自のルールに沿って動いています。それは古くから続く日本らしいルールです。変化の道を拒んだ銀座はグローバル化とはもっとも遠いところに位置しています。だからこそ、世界唯一です。深夜でも一流のご飯、一流の酒、一流のプレーヤー達が出迎える。様々な業種が銀座という狭いエリアに密集し特異な世界観を作り上げています。

銀座は時が速く回ります。新陳代謝が速いとも言えます。オープンからあっという間に有名クラブに上っていく例もあれば、老舗人気クラブがたった一つの経営判断ミスにより1日で廃業に追い込まれる例もあります。銀座ではローマは一日にして成り、滅亡も一日にして成るのです。

社会の縮図とも言える銀座を内部から観察することは、会社経営者、起業家にとってマイナスは事はありません。人材マネジメントを間違えるとどうなるか、資金の使い方を間違えるとどうなるか。経営に必要な要素が実例とともにこの銀座社会には凝縮されています。銀座独自のルールはそれこそグローバル社会でも通用するほど高度に最適化されているのです。

銀座は様々な顔を持っています。先に挙げたように学ぶ場としても有効ですが、違った見方をすれば大人のテーマパークとも言えます。

もう長い付き合いになるママがいます。彼女は当初、どこにでもいる普通の子で、仕事は一般派遣OLでした。副業でホステスを始め、ある時から意を決して銀座にフルコミットしました。彼女はメキメキと力をつけていきます。毎月更新される最高売上。倍々で伸びていく収入。あっという間にママに上り詰めました。わずか数年で一般派遣OLから1億円プレーヤーの誕生です。まさに銀座ドリーム。彼女は歳を追うごとに若返っていき、華やかで威厳あるオーラを放ちます。人は自らの選択によってこうまで変わるのです。これは銀座というクローズされたテーマパークで、選ばれた一部の顧客にしか見ることのできない、最高のトゥルーマンショーです。ボクはそういった輝かしいプレーヤーや、脱落していくプレーヤー達が織り成すショーを最前列で観戦し続け、自分の生活や会社にフィードバックしているのです。

こういった訪れる人の視点によりあらゆる姿に変貌する銀座というクラブ街をキライになる理由がボクにはありません。世界的に見ても安全で、クリーンで、質が高い日本の夜、銀座。世界中どこにこんな街があるのでしょう。これは誇るべき文化です。できれば未来永劫、昭和と変わらぬスタイルで繁栄し続けて欲しいと願っています。
人生一発逆転。銀座ドリームを掴むのに、時既に遅いかもしれません。でもまだ観客サイドにツワモノはいます。わずかな期間で数億円使い込む人。目の前にいるホステス全員にダイヤモンド輝く数百万円のピアスをプレゼントする人もいます。思わず唸ってしまう話が未だほうぼうから聞こえてきます。と、同時にカネの価値ってなんなんだろうって考え込む事もあります。バブルは当の昔に終わったとは言え、社会の強者の力が衰える事はありません。ネオ富裕層も続々誕生しています。強大な力を持つ観客達と、様々な思惑を背景に、必死に成功を掴もうとするプレーヤーら一同が銀座の一角に集結する。こんな世界、おもしくないはずがありません。

とはいえ銀座は衰退を続けていくでしょう。否が応でも時計の針は進みます。銀座の今を支える50代、60代の客たちはやがて退き、銀座は新しい世代をメイン顧客として獲得していかねばなりません。しかし今の現役世代を取り込むのは困難です。今の現役世代にとって、銀座はあまりにも無駄なコストに映るのです。ドレスコード、永久指名、着席5万というシステムはあまりにも時代錯誤です。ステータスという言葉も今や死語になりました。10年後は多くのクラブがなくなっていることでしょう。しかし衰退はせよ完全に無くなることはなく、強者のみが生き残る世界がやってくるはずです。かつて栄えた日本の名残。銀座のショーを見続けたい。観客席に座り続けていたい。そうであれば自分自身も成功を掴んでいくしかありません。後ろ盾もなく、身体一つで生きていくプレーヤー達と、モンスター級金持ち達の生き様、徹底して利益追求するクラブサイドの攻防を観察することは時として自分への戒めにもなるのです。オチのない話ですみません。