
渡米後から今まで、AMGワイドの姿を見ていません。
早速、状態のチェックに行きましょう。
バッテリーをつなげます。古めかしい鍵をドアに差し込み、ひねります。ヌメっとうごくシリンダーを文字通りひねるのです。クーペのドア面積は大きく、重量があります。大きなヒンジでロックされたドアはよく金庫に例えられます。良い例えだと思います。この感覚は、以後のメルセデスでは失われました。
車内に乗り込みます。まず感じる事は”匂い”です。メルセデスには車種や年代ごとに特有の匂いがします。どこかムせるような。それでいてどこか安心感があるような。多くはレザーからくるものですが、各部に使われている素材すべてでこの香りを形成しているのだと思います。メルセデスの調合、実に素晴らしい。
室内灯が正常に機能します。アンバー色の豆電球が優しくウッドパネルを照らします。
この雰囲気が、この世代のメルセデスをよりアンティークな存在にさせるのです。しかし、この世代のメルセデスが骨董品的存在になったとしても、本質はメカです。置物の鑑賞品とは違い、正常に稼働しなければ存在価値がありません。
キーシリンダーをひねります。セルモーターに力がありません。バッテリーを交換する必要があるでしょう。しかしエンジンは快調に始動しました。極めてスムーズです。しばらくエンジンを回します、アクセルをあおると回転がしっかりついてきます。
Dレンジに入れます。機械式ミッションには切り替わるまで若干のラグがあります。ブレーキに駆動力が伝わります。後ろから強く押される感じがします。AMGは走るまでもなく、そのエンジンパワーをドライバーに感じさせるのです。
しばらくエンジンを回した後、分厚いドアを閉め、バッテリーのキルスイッチをひねります。この時間は私にとって喜びです。何も走らせる事だけがクルマを楽しむすべてではないということです。旧車メルセデス。視覚、聴覚、嗅覚、すべてを使って楽しみましょう。