ケーニッヒメルセデス・w126 560SELのレストア作業をやっている。機関系はフルリフレッシュし、残すところはボディ鈑金のみとなっているが、ケーニッヒというバカげたほど大柄なエアロパーツの補修は骨の折れる作業で、長い時間とコストがかかる。

完成までに数年の年月がかかるのであれば、その期間中に新たな車両との出会いがあってもおかしくはない。ここ最近手元に来たのは旧車メルセデスの中でも非常にレアな車両。

クーペ形の560SEC。これをキャラット社がコンバーチブルにカスタムしたもの。状態は悪い。

特にこの腐りきったホロ。

完全に朽ちている。一般的に見るとこういった状態にあるクルマは廃棄されるものと思われるかもしれない。しかし旧車メルセデスファンからすると「まだなんとかなる」程度に見えたりもする。それが愛好家というもの。

例えホロ部分がダメであっても、機関系に目をやると予想以上にキレイな状態。事実、燃料ポンプを交換して少し手を入れてやるだけでエンジンは快調に回りだした。メーターの距離はまだ3万キロあたり。このボロ具合を見ると到底信じられない数字だが、エンジンまわりを見ているとあながち間違った数字ではないようにも思えてくる。とはいえレストアを要するような旧車メルセデスにとって、走行距離はさほど意味をなさない。低走行ものよりも、完璧にレストアされた車両のほうがより良く映る。

軽い整備で機関系に問題ないことが分かった。

このクルマを手元に置いた明確な理由はない。ただ朽ちて放置されるのならとりあえず屋内に保管しておこう。そのくらいの軽い気持ちだった。しかしこの車両を本気で修復しようとすると、とてつもなく大変な作業が待っている。それも分かっていたのでずっと手つかずのまま放置していた。一体どこからこれを治すモチベーションが湧いてくるのだろう。

ガレージのリニューアルに着手したころ。同じケーニッヒ愛好家のO氏から連絡があった。私がこのコンバーチブルを所持していたことを知っていた彼は、レストア状況がどのレベルにあるのか気になって電話をくれた。
ただそのまま放置していることを伝えると、彼はため息をついた後に、どういった手順でレストアしていくかのアドバイスをくれた。こういった類の旧車メルセデスは、機関系よりもボディ状態と内装がレストアの肝となる。機関系はパーツがまだ供給されているのと、リビルド品やOEM品が流通しているので、言ってしまえばなんとでもなる。しかし内装パーツはOEM製造されておらず、状態の良いパーツを手に入れることが難しい。製造から何十年も経過したボディは大抵がサビという持病を抱えており、これを完璧な状態に戻すのは不可能だ。特にハンドメイドで作られたようなこのコンバーチブルだとメーカーからパーツを取り寄せるなんてことは不可能だし、アフターマーケットからリビルド品を探すなんてこともできない。つまりレストア対象にするにはもっとも厳しいコンディションにある。

これと同じ車両を何台もレストアしてきた経験を持つO氏の指示は的確だった。まず腐ったホロをすべて剥がし、骨組だけにする。そこからサビを補修し、ホロを止めるための木材の加工を大工に依頼するように指示を受けた。そこから先は彼が委託している業者に持ち込めば、新たなホロを張り直してくれる。そして、ちょうど今O氏がレストアしている同じ車両がある。なんだかモチベが湧いてきた。私はデータ取りのため、その車両が置いてあるショップに向かった。

千葉県にあるショップ「ボディメイクカズ」に置いてあった。このショップは主にスーパーカー系のカスタムに定評があるようだ。ケーニッヒコンバーチブルの写真を撮りたいだけだったのに、わざわざ社長が声をかけてくれてコーヒーを出してくれた。

これがO氏が今手掛けているケーニッヒ・キャラットコンバーチブル。私が持っているのと同型の車両。機関系、ホロ骨組の修理を終えて、ボディの全塗装のフェーズにある。この後にホロ屋に持ち込まれ、新たなホロが張られる予定となっている。

ホロの骨組部分をよく観察する。

この木材の部分にホロのビスが打ち込まれる。

キレイに加工された木材。

Rもうまく処理されている。

各部をくまなく採寸していく。

このホロを支えるための木材に明確な仕様というものはないようだ。だから現存車を参考にデータ化していくのが一番良い。必要なところはすべて採寸したので、もし必要な方がいれば連絡を下さいと言ってみたいけど、この車両をレストアしている人なんて日本に存在するのだろうか。

ほぼ完成の域に近づいているこのキャラット・ケーニッヒ。これも元の状態は朽ちた不動車だった。それをここまで修復していくわけだから、彼のケーニッヒに対する熱意は凄まじい。

この張り出したフェンダーと345タイヤに魅了されてしまうと、これ以外すべてのクルマがナローボディに見えてしまう。ケーニッヒのファンになってしまうと、もう後には戻れない。

コンバーチブルのケーニッヒはルーフがないので、更に横に広く低く見える。

また一台の80年代のゲテモノカーが現代に復活する。

さて、データ取りは完了した。しかしこの木材の加工をやってくれる人を見つけられるのか。悩みは付きない。でも結局レストアなんて完成してしまえばそれまでで、今悩んでいるこのプロセスにこそ本当の価値があるんだろうと思う。あれもこれも。体は一つだ。出来る事は限られている。今はガレージのリニューアルに集中しよう。