愛情ゆえのクラシックカー投資
クルマはただ乗り潰すモノ。そう思われる事に異論はありません。しかし多くのカーマニアは、クルマは富をもたらすものと考えています。
今日、世界中多くの人々がクルマの収集に携わっています。憧れのクルマを手にする喜び、エンジンサウンドに酔いしれるため。目的は様々ですが、その中にはクルマをポートフォリオの一部として運用する投資家もいます。
特に相場上昇が大きいクラシックカーのカテゴリにおいて、その運用実績は多くの株価指数よりも優れています。特にポルシェやブガッティ、フェラーリ、アルファなどのビンテージコレクション市場の過去10年間の上昇率は500%にも及び、これは優秀な米国S&P指数を大幅に上回る結果です。既に一般投資家達の中で、クラシックカー投資はポートフォリオの重要な分散投資先に位置付けられているのです。
しかし、クラシックカー投資は電子上の取引で完結する他の金融商品と比較して、非常に手間がかかるものと認識しておかなければなりません。クルマという現物がある以上、保管する必要があり、そこにコストが発生します。鉄の塊が永久的に輝いているはずもないので、定期的なメンテナンスもかかせません。幸運にもあなたのクルマが評価され、大きな利益が発生したとしても、売却には手数料とたくさんの税金がかかります。そしてなにより、愛着を持って接してきたあなたのクルマは、もう2度と手元に戻ってくることはないでしょう。
車種の選定にも注意が必要です。クラシックカーが値上がりするにはいくつかの条件を満たしている必要があります。どの車種にも共通して言えることは希少性です。生産された台数が少なければ少ないほどコレクターの熱は上がるでしょう。もう一つは良いメーカーの、確かな品質で作られた車種である事です。良いメーカーは独自の”哲学”を持っています。メルセデスが掲げた「最善か無か」のスローガンが良い例です。
利益を追求する企業にとって、コストを無視してでも良い物を作るというのは難しい事です。それを成し遂げるために重要なのは、企業哲学です。クラシックカーは現物投資だと思われがちですが、実はその時代、メーカーの歴史、しいては思想に投資していること他なりません。
株式投資でもそうですが、市場が下落傾向にあるときに値上がりを期待して買うよりは、値が上がり始めている時に買った方がより安全です。下落局面の最中、いつか必ず上昇局面に転ずる保証はどこにもないのです。特に高価格帯の車両には細心の注意が必要です。例えば80年代。バブルに湧いた日本の富裕層にフェラーリが充分に行き渡らず、価格が暴騰しました。しかしその後、経済が低迷し日本人がフェラーリを買わなくなると、今度は暴落したのです。スーパーカーと言われる高価格帯の車両は投機的志向が強く、企業哲学や車両そのものの評価よりも、その時代のトレンド、人々の嗜好、世界情勢によって大きく価値が左右されます。スーパーカーだから再販価値が高い、限定だからプレミアがつくというのは単なる風潮であって確証ではありません。クルマも株式同様、冷静な市場分析を行い、市場が過熱しすぎている時は買わないように注意することが必要です。
しかし愛するクルマに対して市場分析やグレードの選定などしていられるでしょうか。人を動かす原動力はそのクルマで利益を追求することではなく、ただそのクルマが好きである事です。
30年前、路上で朽ち果てているようなケーニッヒベンツがやがてドバイに高値で取引される事を誰が予想したというのでしょう。クルマを大事にすることに世間の評価は関係ありません。クルマの売買でたくさんの利益を享受したカーマニアの中で、将来の値上がりを期待して買った人は少数のはずです。
クラシックカー投資は原則、長期視点で見る必要があります。長きに渡って好きでもないクルマの保管料、メンテナンス代、税金を払うのは苦行です。よって、クラシックカー投資は趣味の延長で考えるのがベストです。自分が愛せるクルマを大事にすること。あなたが愛するクルマは他の誰かも愛しています。あなたのような愛好家が集まり、今日のクラシックカー市場が形成されています。つまりクラシックカー市場は人々の”モノつくり”に対する愛情によって成り立っているのです。