ビジネストークです。

 

今日は早めの納会を行ったぜ。外国勢はクリスマス、年末年始を家族と過ごすために早めに帰国するから、それに合わせた形だ。ヨーロッパ、アメリカ、アジアへ社員が散っていき、そしてまた来年、日本に戻ってきてくれる。ボクの会社で働くために。あぁ彼らの存在はとてもありがたい。

いつの頃か忘れたけど、会社公式の飲み会的なのはすべて廃止した。そもそもボク自身が強制される飲み会がキライだったし、今の若者に限らずどんな社員でも飲み会で誰かに尽くす(酒を注ぐ、何か芸を見せる)ようなことがあってはならない。

だから納会はケータリングサービスで済ます。コストも低く抑えられるからとても良い。誰も豪華なレストランでやりたいなんて思ってないからね。

海外勤務者、来年入社の新卒者、中途採用予定者も招いた。地方勢は交通費と宿泊費を負担してあげた。喜んで来てくれた。

社員が一同に集まるとこんなにも人がいたのかと驚く。中には顔も名前も知らない若者が混じるようになった。もうボクの目は行き届いていない。誰がどんなスキルを持ち、何をやっているのか。本当はすべて把握していたいけど、いつしかそれも任せるようになった。悪いことだとは思わない。それだけ信用できる人間が増えたということだ。

ボクがリーダーシップを取っていた時は人材の定着率が悪く、質の悪い社員が多かった。不正も起こった。それに見かねた役員がボクに代わり陣頭指揮を取るようになった。
彼は独特の採用手法を生み出し、求人広告費を大幅にカットした上、採用人数は増加、質もよくなった。人材の定着率も伸び、多国籍化が進んだ。彼はネガティブ、利己的、オールドスタイルな働き方の社員に厳しく目を光らせ、結果、不良化した社員は全員会社を去った。リーダーシップを誰が取るかで会社はこうも変わる。もしこの功績にボクが貢献したというのなら、ボクは代表という権利を主張しなかった事だろう。やれる人間がやった方が良い。権限など喜んで渡そう。

新卒は重要だ。会社をどんどん若返らせ、既存社員は若者の育成に責任感を持つ。それは社員の定着率を向上させ、ナレッジを蓄積させる。やがて風土が構築され、結果的に会社独自の哲学が生まれるのだ。その哲学はブランド力をより強固にし、会社を根底から支えてくれる。

事業面では、新たな役職者として4人のリーダー達が誕生した。その中には入社半年の者、新卒3年目の者など、若い世代ですべて占められていた。

こういうもっとも重要な会社人事に、ボクの意は介していない。ボクより若く、博識で、いわゆる今時のテクノロジーを知り尽くした役員がすべて決定している。それで良いと思う。ボクはしゃしゃり出る気もなければ威張る気もない。ボクはただ回りの社員達に混じり、役員たちの演説を一緒に聞いた。おそらく新卒勢は誰が社長なのかなんて分るまい。ボクはそういう組織を創業から目指した。だからこれでいいのだ。

でも納会が進行する中でボクも引っ張り出される。ボクは来年の新卒勢にWelcomeキットを手渡しした。会社オリジナルの手帳や業務グッズが入っている。年間MVP賞も発表され、ささやかな金券が配られた。

ほんの数年前、ボクはボクが作ったソフトウェアのクレームに対応するために、24時間働きっぱなしだった。完全に疲弊し、何日ぶりにベッドに横になれたかと思った瞬間にもクレーム電話が鳴った。既に気は狂っていたから、もう一歩いけば死が見えたかもしれない。そう思うとこの数年ですべてが一変した。でもなぜかあの時に戻りたいと思うんだ。それはきっと苦悩しながらも、ゼロから何かを生み出していた実感があったから。

納会最後にボクの時間が取られていた。ボクは話す事を何も考えていなかったからマイクを前に言葉を失ってしまった。

ボクは大勢の社員の前で演説する自分を目標にしたことは一度もなかった。できればプレイヤーとして、君たちと一緒の側に立っていたいんだということを話した。だから君たちの今の時間は輝いていると。今を大事にしてほしいと。

深夜まで大勢の社員が歓談していた。業務や人種を超えて、みんながつながり合う良い時間だ。各々が声を掛け合い、一人、また一人と2次会に出て行った。外国勢には国に帰るためのお小遣いを持たせてやった。彼らはボクにハグをして帰っていった。

さっきまで騒がしかった社内が急に静まり返る。ボクだけポツンと残った。コーヒーを入れた。どこかのお店で社員達が楽しそうに飲んでる姿を想像しながらそれをすする。会社の成長を実感できた。一人でいてもなんだか幸せな気分だった。すべてはこれでいいのだと。他者比較は行わず、ボクらはボクらのやり方でやっていこうって思う。

2020年、どうなるだろう。世界的な不景気がやってくるかもしれない。デフレが進行するかもしれない。消費は復活しないかもしれない。それでもいい、きっと今のメンバーなら乗り越えられる。

さぁて仕事を始めようか。